今年は“変革の年”。2025年シーズンの開幕を前に、TEAM IMPULの星野一樹監督はそう宣言した。
かつては本山哲、ブノワ・トレルイエ、松田次生、ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラなど、トップフォーミュラで数々のチャンピオンを輩出し、常勝軍団として君臨したTEAM IMPUL。最近でも2021年にチームチャンピオンに輝くなど変わらず強さを見せており、星野氏も当初は参謀的な立場でチームの勝利に貢献していたが、2023年から正式に監督として手腕を発揮することになった。
しかしながら、昨シーズンのインパルは厳しい結果に終わった。思い返せばケチのつき始めとなってしまったのが、F2チャンピオンのテオ・プルシェールがわずか1戦で離脱したこと。そこから19号車のドライバーはベン・バーニコート、平良響、ニック・デ・フリーズと目まぐるしく交代することになり、腰を据えてケミストリーを築き上げることができなかった。20号車の国本雄資も第4戦で6位に入るなど気を吐いたが全体的には苦戦し、チームランキングは8位に沈んだ。
稀に見る不振に喘いだインパルを立て直すべく、星野監督は様々なテコ入れをしている。それはピンポイントなものではなく、多面的に行なっているという。
「どこか特定の場所ということではありません。トップチームだって、常に前進しないと次の年にはトップから落ちてしまうくらいですから」
「全てを見直して、良いことは引き継ぎ、改善点は少しずつ良くしていきたいです。ドライバーやエンジニアにスポットライトが当たりますが、全てです」
「人材だけではなく、自分たちのやり方など、それらも含めてゼロからやり直そうとしています。あとはうちの御大(星野一義総監督)からの蹴りが来てしまうので、その蹴りの回数が減るように頑張っていきたいです(笑)」
このように全てを見直していると語った星野監督。スタッフも様々入れ替わっているようだが、やはり変革を象徴するような動きと言えるのが外国人エンジニアの登用だ。インパルは今季、IMSAでキャデラックのLMDhプログラムに関わっていたアメリカ人エンジニア、オスカー・ゼラヤを獲得。星野監督も彼の心意気や優秀さをかなり高く買っており、ドライバーであるオリバー・ラスムッセンとのコンビネーションには注目が集まる。

“元祖日本一速い男”こと、星野一義(現総監督)が興したホシノインパル。その名門チームを息子である一樹監督が引き継いで2年が経つが、親子と言えど、やはりそのキャラクターには違いもある。
「一樹は英語もできるし、頭の回転やセンスの部分も俺より全然上だと思う。『今のタイムがこうだから、あと何周でピットに入れないと……』とかの計算が速いこと速いこと。僕にはそんな計算はできない」
以前、父である一義氏は息子の一樹をそう評していた。当然、チームには御大の“全開魂”が脈々と受け継がれているが、そこには“カズキング”のエッセンスも加えられようとしている。
「自分がヨーロッパでレースした時に衝撃を受けたこともたくさんありました」と語るのは一樹監督だ。

「日本人は性格的にも、ものすごく努力をして『1を100にする』ことに関しては素晴らしいと思っています。ただ『0から1を生み出す』ということに関しては、欧米がすごいと感じます。今のトップフォーミュラで結果を残すためには、それぞれの良さをミックスする必要があるのかなと、そういうことも考えていました」
「欧米のそういったところも取り入れていきたいと考えていますが、ベースはもちろん星野一義の“全開魂”です。テストだろうが、全セッションでモニターの最上段にいないと気が済まないというのは、星野一義に限らずチーム全員が思っていることです。去年は過去最大に低迷してしまいましたけど、そういった点に関しては僕も含めて何も変わってないと思います」
浮上を目指し、心機一転シーズンを迎えるTEAM IMPUL。今季のオフィシャルスポンサーは旧ビッグモーターの事業を伊藤忠グループが承継・再建する形で昨年立ち上がったWECARS。両者の新しいスタートにふさわしい爽やかなカラーリングのマシンが、開幕戦の舞台鈴鹿を駆けることになる。