世界最速の箱車レース、スーパーGTは“若者のクルマ離れ”に対抗できるか?|英国人ジャーナリスト・ジェイミーの日本レース探訪記

世界最速の箱車レース、スーパーGTは“若者のクルマ離れ”に対抗できるか?|英国人ジャーナリスト・ジェイミーの日本レース探訪記

スーパーGTは長年、日本において最も人気のあるモータースポーツカテゴリーという称号を非公式ながら手にしてきたと言えます。その人気は、同じく国内最高峰カテゴリーに数えられるスーパーフォーミュラを大きく上回ってきました。

しかし、昨年の観客動員数を見ていくと興味深いものが見えてきます。その伸び率はスーパーフォーミュラの方が大きいことです。

スーパーフォーミュラは昨年、209,000人を動員しました。これはシリーズが現在の名称になってから最多であり、フォーミュラ・ニッポン時代まで遡っても、245,900人が訪れた2008年以来となります(ただし現在より1大会多い8大会の開催)。

一方スーパーGTは合計343,800人の観客が訪れており、これはスーパーフォーミュラよりも遥かに多い動員数です。しかしながら前年比の数字を見るとスーパーGTが10%増なのに対し、スーパーフォーミュラは27%増となっています。加えてスーパーフォーミュラとスーパーGTの観客数の差は、その絶対数とパーセンテージの両面において、2004年以来(当時スーパーGTの名称はJGTC)の小ささでした。

つまり、スーパーフォーミュラはまだスーパーGTに追いつくまでには至っていないものの、着実に差を縮めているということです。

スーパーフォーミュラのプロモーターであるJRPが過去数年にわたって進めてきた『NEXT 50』プロジェクトは一定の成果をあげたように見えます。さらには、レース自体の質の向上や、COVID-19の流行が落ち着いたことで海外の有力ドライバーが戻ってきたことも影響しているでしょう。昨年のJujuの参戦が観客動員数をさらに押し上げたことも間違いありません。

スーパーGTは観客を惹きつける要素において、これまでスーパーフォーミュラに対して明確なアドバンテージを持っていました。例えば、走るマシンの台数が多く、応援する対象となるドライバーやチームが多いこと、2クラスの混走による絶え間ないバトル、そしてレース距離の長さなどです。特にクルマ好きのファンにとっては、色々な車種の箱車が走るスーパーGTの方が魅力的に映るでしょう。

ただ、メディアや自動車業界を取り巻く環境は2019年以降に大きく変化しました。最近F1の世界的な人気が拡大したのは、Netflixのドキュメンタリー番組『Drive to Survive』が好評を博したことも大きいです。スーパーフォーミュラはF1と本質的に似ている部分が大きいため、F1に次ぐレベルのカテゴリーということでF1人気の恩恵を受けやすいと言えます。

日本におけるF1人気を象徴するシーンとも言えたのが、昨年12月に鈴鹿で行なわれたスーパーフォーミュラのテストです。この日はオリバー・ベアマン目当てに多くのファンが詰めかけました。彼はまだF1で3レースしか走っていないにもかかわらずです。ベアマン自身はスーパーフォーミュラに参戦しませんが、このことはシリーズに大きなPR効果を産んだでしょう。

しかしそれ以上に重大と感じるのが、日本の若者世代のクルマ離れが進んでいるという調査結果が出ていることです。つまり、スーパーGTがこれまで伝統的に持っていた強みが、時代とともに薄れていくリスクがあるのです。今後、公道をテスラやBYDといった新参メーカーの電気自動車が多く走るようになると、そのリスクには拍車がかかってしまいます。

このような傾向を踏まえて、モータースポーツが純粋なクルマ好きのためのコンテンツではなく、一般的なエンタメの一形態としてみなされる流れが強まるのであれば、それは“ヒューマンモータースポーツ”を掲げるスーパーフォーミュラにとって追い風になると言えます。

その点においてスーパーGTは、1台のマシンをふたりのドライバーがシェアするというフォーマットが不利に働く可能性があります。またシリーズの性質上、世界耐久選手権(WEC)やIMSAといったグローバルな選手権のように、最高峰クラスに世界の様々なメーカーをワークス参戦させて注目度を高めるのも難しいでしょう。

個人的には、過去にドイツのDTMとの提携を試みて導入したClass1規則のような、新たな枠組みを作ることに過度なエネルギーを費やすのは得策ではないと考えます。結局のところ、新たなメーカーを呼び込むには至らなかったからです。それよりも、スーパーGTが既に持っている、“世界最速のGTカーによる白熱したレース”という要素を最大限活かすことに注力すべきです。

具体的には、予選および決勝レースのフォーマットを最適化し、今後のシリーズにとって完璧なカレンダーを作り上げることが重要です。今年のセパン戦開催はその点で良い走り出しだと言えます。

さらに、次期GT500規則の策定にあたっては、トヨタ、ホンダ、日産が引き続き参戦し続ける十分な動機を与えることが不可欠であり、可能であれば参戦台数の増加を促すことも視野に入れるべきです。特に現在の日産の財政状況を考えると、コストパフォーマンスの良い規則づくりが鍵になるでしょう。

もちろん、サーキットでの観客動員数だけで各シリーズの人気を正確に測るには限界があることにも言及すべきです。今季に関しても、スーパーGTはこれまで2回あった鈴鹿戦のうち1回がセパンに置き換えられることの影響を受けるかもしれません。鈴鹿では2日間で4万人以上の観客を動員していたため、この変更が観客数にどう影響するかは注目すべき点です。

同様に、スーパーフォーミュラは1大会2レース制の週末が増えることで、これまで日曜だけ観戦していたファンが2日間訪れるようになれば、観客数の増加につながる可能性があります。

とはいえ、TV視聴率などのデータがない現状では、観客動員数が各シリーズのパフォーマンスを測るほぼ唯一の指標であることに変わりはありません。そして最新のデータを見る限り、スーパーGTがスーパーフォーミュラに対して持つ“リード”は、かつてほど盤石ではなくなっているようです。

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